ケース10 民間の借り上げアパートで暮らすAさんが訪問時に涙を流して不安を語ることが多くなりました。上司に相談すると「震災前から訴えの多い人だから」とこれまでの支援方法でいいといわれましたが心配でなりません。 | はあとふる・ふくしま

loader
はあとふる・ふくしま
避難者への生活支援とボランティア活動を伝えます

ケース10 民間の借り上げアパートで暮らすAさんが訪問時に涙を流して不安を語ることが多くなりました。上司に相談すると「震災前から訴えの多い人だから」とこれまでの支援方法でいいといわれましたが心配でなりません。

チーム運営編

 自分の感じている危惧がなかなか伝わらない・・・。支援を巡ってチーム内で、あるいは上司との関係において、お互いの納得や合意がつくれず、組織として仕事を進める難しさにぶつかることがあります。でも気になる・・・どうしたらいいのでしょうか。

支援者としての専門性を高める
 過去に例の無い大震災により、愛する人や故郷を失い深い悲しみにくれる人が、少しずつ現実を受け入れ、自分らしく生きていくことを選択できるようにするためには、日頃から関わりを持つ支援者が、その人の側に立って共に現実と向き合っていく役割が求められます。不安や悲嘆をありのまま受け入れて傾聴し、心から共感を示すことしかできないかもしれませんが、その人が生きていく力を取り戻すための大切な基本姿勢です。

 相談員を職業としている者としては、実践や学習を通してその専門性を獲得し、スキルを磨いていく必要があります。相談援助の業務経験が浅い方にとっては、支援方針に自信を持てず、常に悩みながら関わることも多いと思います。もちろん、一人で悩まずに上司や同僚、関係者などと情報を共有しながら支援方針を決めていくことが基本ですが、そのプロセスでは支援者間での価値観の違いから葛藤を感じることも多々あると思います。上司と部下、チーム間で起こるさまざまな実践におけるジレンマは、お互いの価値観の違いからくるものであり、それぞれが自分の立場から主張することで起こります。

 医療、保健、福祉、行政などの専門職が連携する時に、それぞれの専門分野の違いや異なる背景により価値観がぶつかり合うことがあります。しかし、一番大切なことは「本人が何を望んでいるのか」を真ん中に据えた話し合いができているかです。専門職がその人にレッテルを貼り、経験に基づく支援パターンに押し込めることがあってはいけません。あなたが、支援を必要とする人と日々のつながりのなかで信頼関係を築き、最も身近な専門職として存在するならば、その人の立場に立った支援とは何かを深く考え、その人らしく生きることに関わる者として、あきらめずジレンマを乗り越える必要があります。

ひとりで悩まないための体制づくり
 多様な困難を抱えた避難者を支援する者として、あなた自身もまた支援されるべき存在であり、安心して自分の悩みを聴いてもらえる場が必要です。ひとりで抱え込まず、支え合える仲間がいる組織づくり、職場環境がなければ、燃え尽きて職場を去っていくことになりかねません。また、職場の方針に納得できず、個人の判断による過剰な支援を独善的、場当たり的に行ったことで、その人の自立を阻害することになるということも起こります。相談援助のプロとして、どのような関係性をその人との間で築くべきか、あなた以外の関係者の多様な意見を取り入れながら、複数の視点で支援方針を検討する必要があります。

 支援体制についても個々の相談員でおこなっているのか、チーム制なのか、多職種でのチームアプローチができているのかなど点検すべきことは多いでしょう。相談員が仮設住宅単位や地区単位等で、複数でチームを編成して活動するようになっているでしょうか。特に気になるケース、対応が困難と思われるケースは2名以上で支援を行い、ひとりで悩むことなく、同僚と課題を検討することができるようにします。また、医療・福祉関係機関や民生委員・児童委員、サロンを運営するボランティアなどとの連携により、幅広い支援者ネットワークが構築されることで、相談員がひとりで受け止めなければいけない負担感が減少します。

活動のヒント:事例(ケース)検討会の開催
 支援において本当に大切にすべきことは何かを話し合い、適切な支援方法を導き出す場として、事例検討会を開催するという方法があります。事例検討会は、職場内で行う場合もありますが、その人に関わる関係機関や民生委員・児童委員なども交えて行うと第三者の視点が入り、より幅広い多角的な視点により支援の行き詰まりを打破できることもあります。

 事例検討会では、持ち回りで個々の相談員が抱える支援課題について事例を提供します。この時、必ずしもスーパーバイズできる技量や経験がある人が同席できるわけではないと思いますが、相談員だけで事例検討会をおこなう場合でも、同僚同士のスーパービジョン、つまり“ピアスーパービジョン”による事例検討会も一定の効果を得ることができるでしょう。

 大切なのは、参加メンバーが事例提供者の事例に自らも当事者性をもって取り組み、けっして批判的に意見を言わないことがルールです。事例提供者の取り組みを尊重し、壁を乗り越えようとする態度をねぎらい、支持的な姿勢で議論することでチームとしての一体感を醸成していくことにもつながります。組織内での事例検討会を通して、組織のミッションに基づいた価値観を明確にしていくことで、支援方針の食い違いからくるジレンマも減少できるとこれまでの体験から実感しています。

(井岡仁志)

ハンドブック内検索


ハンドブック目次


ハンドブックPDF