事例1 ちょっと気になる人を近隣住民とともに支える | はあとふる・ふくしま

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避難者への生活支援とボランティア活動を伝えます

事例1 ちょっと気になる人を近隣住民とともに支える

南相馬市ちょっと気になる人を近隣住民とともに支える
津波被害と原発事故により南相馬市鹿島区の仮設住宅で
避難生活を送るAさん(80代女性)の不穏状態を
ケア会議で関係機関と情報を共有し役割分担。
ご近所の見守りとも連携し、よい状態に導いた事例。
南相馬市の避難の状況と市内居住の状況
南相馬市の人口・・・71,561人(平成23年3月11日現在)
平成24年1月24日現在の避難の状況
●市内居住者・・・計45,873人
[自宅居住・市内の知人宅や借り上げ住宅等・市内の仮設住宅]
●市街避難者・・・17,615人(うち福島県外・・・10,749人)
[市外の知人宅や借り上げ住宅等]
●その他・・・8,073人
※南相馬市HPより

ストーリー



「何かあったらお電話を」。
生活支援相談室の連絡先を仮設住宅全戸に配布

 南相馬市社会福祉協議会(以下、南相馬市社協)の生活支援相談員は、総勢15人。南相馬市と相馬市に39カ所ある仮設住宅(約3,000戸)を5班に分かれて担当し活動しています。仮設住宅は、どこも日中独居の高齢者世帯が多く高齢化率は32%[2012(平成24)年1月30日現在]。何かあったら生活支援相談室に電話が来る流れを作りたいと生活支援相談員は、自分たちの役割と連絡先を書いたチラシを制作。初回の訪問時に全戸配布しました。個別支援については、訪問活動で集めたデータを基に要支援者と必要な訪問回数を割り出し、「生活支援相談員だより」を毎月全戸配布しながら行う定期的な安否確認に、プラスして訪問しています。

Point
 生活支援相談員だよりを毎月全戸に配布することで安否確認ができ、状態の変化に気づくきっかけにもなります。

Point
 仮設住宅にはさまざまな人や団体が訪れます。「生活支援相談員」の存在を理解してもらい、定着させるために、簡単な新聞(チラシ)を作成・配布するのも大変有効です。

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相談員の仕事と相談室の連絡先を明記したチラシ

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毎月全戸配布している「生活支援相談員だより」には、サロンの予定表も明記して告知


80代の女性が秋口から不穏状態に。
頻繁にかかってくる電話をきっかけにケア会議を開催

 津波被害と原発事故により被災したAさん(80代女性)が、50代の息子さんと2人で南相馬市鹿島区の仮設住宅に入居したのは、2011(平成23)年6月でした。Aさんと同じ原町区出身の方々が集まって暮らす仮設住宅は、集会所を使って地元の団体がオープンカフェを運営するなどアットホームな雰囲気。震災前からのおつきあいはなくても、仮設住宅の中ではみなさんが顔見知りという穏やかな環境です。頼る人がいないAさんと息子さんもまずはひと安心。息子さんが仕事に出てしまう日中、Aさんは一人で過ごすことになるのですが、それでも静かな日々を送っていました。ところが…夏頃から状況が変わりました。いつものように生活支援相談員が訪問すると、その日は様子が違いました。

 「熱中症の心配もあったので救急車で病院へ搬送しました。体調を取り戻されてからも心配で、私たちも気にかけて訪問を続けていました」と、生活支援相談員のUさん。

 そうこうしているうちに、同年11月頃から生活支援相談室に頻繁に電話がかかって来るようになりました。さらに、首都圏で暮らす娘さんにも泣きながら電話をかけるようになり、心配した娘さんが生活支援相談室に電話をかけてくるということが繰り返されるようになりました。不安になってしまうわけをAさんに聞くと、同居しているご家族との関係にあることがわかりました。

 「息子さんとは、日中、連絡が取りづらいだけでなく、長期にわたって連絡が取れなくなることもあったようです」

 少しずつ認知症の症状も進んでいたAさんは、ひどい不穏状態に陥ったのです。生活支援相談員は、電話があるとすぐにAさんのお宅を訪問。落ち着きを取り戻すまで話しを聞くなどの見守り活動を続けました。一方で同じ時期にAさんが市役所にも頻繁に電話をかけていることが分かったので担当保健師に相談。各関係機関に伝えてケア会議を開催し、それぞれの役割を確認しました。

 Aさんのケア会議には、生活支援相談員、ケアマネージャー、地域包括支援センター、保健師、行政、心のケアチームも加わりさまざまな検討を行いました。その後、ケアマネージャーは、介護保険の区分変更申請を行いデイサービスを利用できるようにしました。保健師はこれまで通り定期的に訪問を続ける一方、生活支援相談員は、不穏状態であればデイサービスの日を除き毎日訪問することにしました。ほかにも仮設住宅を管理している市の建築住宅課に依頼し、Aさん宅の屋外に「非常用呼び出しシステム」を設置。仮設住宅のみなさんには、非常ベルが鳴った時の対応マニュアルを明記した手順書を全戸配布しました。

Point
 「とくに問題はない」「安定している」と思われる方であっても、時間の経過やまわりのちょっとした変化で、状態が変わることがあります。継続して訪問する意味は大きいですね。

Point
 Aさんにとっては、「生活支援相談室」という電話をかける先があったことは、とても大きかったと思われます。また、Aさんや娘さんの話を傾聴し、不安の背景を理解しようとした相談員の存在は本当に重要です。

Point
 Aさんが娘さんと生活支援相談室だけでなく、行政にも頻繁に電話をかけていたとわかった時点でケア会議を開催する必要があると判断したとのこと。早い時点で会議を開いたことで、複数の専門機関・支援者による手厚い見守りを可能にしました。

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ご近所の方々と生活支援相談員、
関係機関の手厚い見守りで落ち着きを取り戻したAさん


 ご近所のみなさんによるAさんの見守りは、誰かに頼まれたわけではなく自然に生まれたものでした。

「不安になると近くに住んでいる方に相談されていたんだと思います。いつの間にかAさんのお宅で近隣の方が話をしていたり、おかずを届けてくださるようになりました」と、生活支援相談員のUさん。

 Bさん(70代女性)に、Aさんのお宅を頻繁に訪ねるようになったきっかけを伺うと「いつも寂しそうにしていたので放っておけなかったんですよ」と話してくださいました。Aさんとは、仮設住宅で知り合ったそうです。

 「同じ敷地だし、住まいも近かったので出かけて行ってはいろんな話をしました。そのうち『財布がなくなる』と言うようになったんです。仮設住宅に住んでいる人たちは、お天気が悪いと外出もできないのでタンスの中の物を出したり入れたりして片づけを始めるんですよ。Aさんもそうやって片づけている間に仕舞い忘れたのでは…なんて思っていたんですが…。今思えば認知症が進んでいたのね。私たちが暮らしている仮設住宅は、床が全部つながっているので音が筒抜けなんですよ。みんな『おたがいさま』という気持ちで暮らしています。Aさんのこともそういう気持ちから始めたこと。ごくごく自然なことですよ」


Point
 このように、ご近所や知り合いの間で自然に行われている助け合い(インフォーマル・サービス)の存在を把握することも、大切な役割です。ご本人の様子だけでなく、ご本人をとりまく環境も意識して観察することが必要です。

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見守りを引き受けてくださったBさんと生活支援相談員

 生活支援相談員は、仮設住宅のなかで生まれた自然な見守りと専門職の見守りを繋いで手厚くするべく、Bさんと、Aさん宅の隣で暮らすCさんご夫妻にも毎日の安否確認を依頼。変化があった時には、すぐに連絡をいただくことにしました。

 身近な見守りということでは、同年8月に仮設住宅の集会所でスタートしたオープンカフェの存在も大きかったそうです。地元の団体が運営しているカフェは年中無休。お菓子もコーヒーも無料で電動マッサージチェアも備えています。Aさんも時々、出かけていたようです。

 「訪問活動をしていると『部屋の中にいると悪いことばかり考えてしまうので外に出たい』とおっしゃる方がたくさんいます。人と話せる場所があるっていいですよね。訪問活動のときは、私も必ずカフェに立ち寄るようにしています」と生活支援相談員のUさん。

Point
 Bさんには、もともと行われていた自然な見守りをさらに強化するため、改めて見守りを依頼。Cさんご夫妻には新たに見守りを依頼しています。このように既存のインフォーマル・サービスを強化するとともに、新しいインフォーマル・サービスも機能するような働きかけがなされているのはとても参考になります。

Point
 訪問時にカフェを訪ねることは情報収集だけでなく、周りのみなさんとコミュニケーションを深めたり、新たなニーズの掘り起こしにも繋がります。

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仮設住宅の集会所

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仮設住宅の集会所で地元の団体が活動している年中無休のオープンカフェ


 このようにして体制を整え、きめ細やかな見守りが始まるとAさんも落ち着きを取り戻し電話をかけてくる回数も減りました。ケア会議から1年後の2012(平成24)年11月、Aさんは認知症が進行したことから首都圏に住んでいる娘さんの家族と一緒に暮らすことになりました。長く見守りをお願いしてきたCさんご夫妻も、時を同じくして生活再建ということで仮設住宅から引っ越して行かれました。

取材協力:南相馬市社会福祉協議会生活支援相談室


まとめ
生活支援の連携を育て地域福祉として実らせていくことも生活支援相談員の役目
 今回の見守り活動で生活支援相談員が改めて肝に銘じたのは、人と人を素早くつないで問題解決に導くことが私たちの仕事の基本だということ。支援を必要とする人の状態を生活支援相談員、行政、保健師、各関係機関がよく分かり、重複することなくきめ細やかに支援をしていくためにも、今回のケア会議をきっかけに生まれた連携をさらに強く太いものにしていきたいと思っています。また、問題を関係機関につないだ後は、必ず「どうなりましたか」と先方に尋ね、悩んでいる人に進捗状況を知らせることで解決までの安心を届けるようにしています。

 さらに今後は、連携を通して育んだ見守りを地域福祉としてつないで行きたいとも考えています。なぜなら町の歴史は、震災前から連綿と続いてきたもの。その歴史の中でよもやの大地震、大津波、原発事故が起こり、今もって大勢の人が仮設住宅や借り上げ住宅での避難生活を余儀なくされています。その生活を支え、必要なサービスにつないで行くのが生活支援相談員です。位置づけは社協職員と同じ。社協の地域事業のひとつだということを、行政はじめ各関係機関に理解していいただき、地域福祉として長期的なビジョンを持って活動していくことが重要と考えています。

(社会福祉法人南相馬市社会福祉協議会 主任生活支援相談員 黒木洋子)

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