社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

復興とは、それまでもそこにあった地域の課題と向き合うこと

2013/11/06
 

創造的で持続可能な自己変革が
できる地域の実現を目指して


岩崎大樹さんと羽鳥圭さんが代表理事を務める特定非営利活動法人コースター(以下、コースター)は、東日本大震災から1年半が経過した2012年10月、地域の社会活動を担う若い世代を育成するNPOとして誕生しました。以来、創造的で持続可能な「自己変革」ができる地域の実現を目指し、以下の3本柱を軸に事業を展開しています。
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▲代表理事の岩崎大樹さん(左)と羽鳥圭さん
1.社会的課題の解決に取り組む人材を育成する事業
①研修事業…NPOスタッフや地域の若者を対象に、リーダーシップを高める場、思考力を磨く概念スキルの研修、組織を運営し成果を出して行くための実務知識を身につける講座などを提供します。
②キャリア教育事業…進路選択前の学生が自らのビジョンを明確化し、そのビジョンに基づいた進路選択と知識・能力の獲得を支援する高校生を対象にしたキャリア教育。
2.地域社会の変革を促進するための社会的基盤を整備または強化する事業
③地域変革事業…協働事業の形成支援、運営支援
④コミュニティスペース運営事業…コミュニティスペース「ぴーなっつ」(郡山市)、「ぽらりす」(福島市)の運営
3.その他、第3条の目的を達成するために必要な事業
⑤田村市復興応援隊事業


コースターの母体となった
なかネットとぴーなっつ


コースターは、2003年から中間支援組織として活動を続けてきた福島県中地域NPOネットワーク(以下、なかネット)と、2008年に活動を開始したソーシャルネットワークカフェ、SCNぴーなっつ(以下、ぴーなっつ)を母体に生まれました。
ぴーなっつは、なかネットの理事をしている岩崎さんと厚生労働省の「若者サポートステーション」事業を委託されたNPO法人ビーンズふくしまの担当者・鈴木綾さん、日大工学部や桜の聖母学院短期大学とそのOBOGなどによるボランティアサークルP-POPの関わりから生まれました。「根底にあるのは、人材育成です。『若者サポートステーション』を卒業した人や社会復帰を願う人の溜まり場が必要だと考えていた鈴木さんと、ソーシャルな分野に大学生や若者が参加しやすくすることがまちの活性化になると考えていた私の思いが合致したことが原動力になっています」と岩崎さん。なかネットで借りていた倉庫付の建物を拠点に動き出すと待ち合わせや暇つぶしの場所として、ゲストブックにコメントを書いてくれた人だけでも1年間に900人を超えました。2009年8月「社会起業支援サミットin福島」を、2010年12月に「ふくしまワールドカフェ」を開催すると、地元はもちろん全国から20代、30代の若者が、ぴーなっつに集まってくるようになりました。

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▲2010年12月に開催された「ふくしまワールドカフェ」。当時、集まった大学生や20代の若者たちが震災後の活動でも力を発揮した


SNCぴーなっつを拠点に
スタートした支援活動


そんな矢先、東日本大震災が起きました。「最初は、mixiで情報交換していました。原発事故による避難についても『これぐらいになったら避難しよう』とか、放射線についての考え方を出し合いシミュレーションをしたおかげでみんな落ち着くことができました」。そうこうしているうちに岩崎さんたちの拠点には、倉庫があるというので、行政では受け取らない個人の方の救援物資を預かることに。ぴーなっつを溜まり場にしていたみなさんは、仕事も学校もいつ始まるかわからないという状況で、何か役目があった方が落ち着くということもあり救援物資を搬送するお手伝いを始めました。同年4月下旬になると、避難所になった郡山市のコンベンション施設「ビッグパレットふくしま」のお手伝いもするように。おだがいさまセンター(※1)の立ち上げにも関わりました。
「避難されているみなさんに届ける情報紙の編集から印刷、配布のお手伝いもしました。ぴーなっつ、ビーンズふくしまの『若者サポートステーション』のみんなも一緒に動きました」。当時、岩崎さんは1週間に1回から2回はおだがいさまセンターに顔を出し、何かあると地域のNPOにつないでいたそうです。並行してIIHOE(人と組織と地球のための国際研究所)の川北秀人さんの声掛けでスタートした『ふくしま連携復興センター』(※2)のお手伝いで仮設住宅へアスメントに出かけるなど、一度に複数の活動に関わっていました。


そこに行くと必ず誰かがいて、
一緒に何かできると思える場所


ぴーなっつの魅力を岩崎さんは、「そこに行くと必ず誰かがいて、一緒に何かできると思える場所。集まって話をすることで得た気づきや元気を持ち帰ることができる場所」と話します。「震災後、ぴーなっつに出入りしている友人を手掛かりに県外からボランティア活動にやってくる若者がたくさんいました。福島復興支援学生ネットワーク(※3)の会議室になることもありましたし、多くのインターンも受け入れました。若い人が集まるほど、ソーシャルな分野に若者が入っていける道筋を整えたいと思うようになりました」。
2012年5月、岩崎さんは東京から郡山市に引っ越してきた羽鳥圭さんらと若い世代を育てるNPOの立ち上げ準備を始めます。同年10月12日に設立総会を開催。翌年3月に登記を済ませたのがNPO法人コースター(以下、コースター)です。ぴーなっつは、福島市内に開設した「ぽらりす」と共に、若者のたまり場からつながりを作り活動を生み出して行く「コミュニティスペース」として動き出しました。「ここにいると人もいるし情報も入ってくる。時間の制限もなく自由に使える。事務所代わりにもできるから何かやってみようと思える場所にしたいと考えています」。
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▲郡山市にあるコミュニティスペース「ぴーなっつ」(左)と福島市にある「ぽらりす」。岩崎さんは、コワーキングスペースのほかにインキュベーション機能も持たせたいと考えているそうです


成功体験を積み重ねながら
都路地区の復興を目指す


コースターの3本柱の一つ「地域変換事業」は、2013年7月「田村市復興応援隊事業」(以下、応援隊)として田村市からの委託を受けてスタートしました。この事業は、同市船引町の運動場に建てられた仮設住宅で避難生活を余儀なくされている都路地区(※4)のみなさんの復興を支援する事業です。具体的には、20代から50代の男女9名の応援隊員がコミュニケーションを通して住民の皆さんによる能動的な取り組みを引き出し、成功体験を大切にしながら復興に向けた活動を支援していくものです。
「例えば、仮設住宅での話ですが、子どもたちを対象にミニワールドカフェを開催したときのことです。子どもたちから『遊ぶ場所がない』『バスケットボールのコートのようなものがほしい』という話が出たので自治会のみなさんにお伝えしました。すると、さっそく集会所の壁にバスケットゴールを取り付けてくださったんです。遊ぶ場所ができたことで中高生がワッと集まるようになりました。ところが、子どもたちが集まるようになると、遊び場の近くのみなさんは騒音に悩まされるようになりました。でも、子どもたちは長く遊びたい。どうしたらいいか…というので、保護者会を作ってそこで解決策を相談するという流れになりました。住民のみなさんが自分達で建設的な答えを導き出す環境を作れたというのは、とてもうれしいこと。こうした積み重ねを大事にしていきたいと思っています」。

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▲応援隊が2013年夏に参加したイベントの一つ「都路灯まつり」(2013年8月4日)


自らの手で自分たちのまちを良い方向に
変革させていく支援こそ応援隊の役目


応援隊は、今年9月都路地区内にも事務所を構えました。世帯的には、3分の1の方が帰還されたことになっていますが、それは世帯としての数字だそう。「実際には、お子さんやお孫さんは、戻ってきていないというケースがかなりあります」。買い物に不便を感じている人も多いことから、そのお手伝いや普段の見守りも応援隊の役目とも考えているそうです。「保健師さんが運営しているサロンを応援隊が引き継ぐという話も出ているのですが、そこで考えなければならないのが、運営主体が応援隊に代わりましたというだけでいいのかということ。やはり都路地区に帰還されている方のなかからリーダーが生まれ、その方が引っ張って行くサロンを応援する状況に持って行きたい。復興とは、それまでもそこにあった地域の課題と向き合うこと。自らの手で自分たちの住む地域社会を良い方向に変えていくことだと考えています」。

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▲打ちたて、ゆでたてのそばをいただきながらコミュニケーション ▲支援機関の連携を図るための支援者連携ミーティング。ほかに行政ミーティング、支援団体への定期的な訪問およびヒアリングを実施しています


社会の様々な分野で活躍する
大人をロールモデルに


地域変革の担い手を増やしていくためには、多くの若者が少しでも早い段階で問題意識を持ち、知識や能力を身につけて行くことが重要と考えるコースターは、生徒を対象にしたキャリア教育のプログラムを中学校や高校に提供しています。昨年は、県立福島高校で復興に関する課外授業を実施しました。2013年は、南会津中学校で開催する予定です。「南会津中学校は、全校生徒100人くらい。ほとんどが農家という地域です。そこで、多様な生き方をされている大人をお連れして、生徒たちに一つのロールモデルにしてもらおうと考えました」。ゆくゆくは、キャリア教育のウエイトを大きくしていきたいと語る岩崎さん。「これまでさまざまなNPO活動に関わるなかで気づいたのは、ソーシャルな分野に多くの大学生や若者が関わるようになると、市民活動もまちも活性化されていくということ。復興も然りです。小さいながらもぴーなっつで出来た若者が主体性を持って刺激し合えるコミュニティをコースターでも!と思っています」。

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▲生徒たちにとって社会の様々な分野で活躍する大人の存在は、まさにロールモデル


最後にコースターが今、必要としているボランティアニーズを伺うと、田村市復興応援隊では、住民の方が楽しめる場を作れる人や心のケアなど、専門的なスキルを持っている方を求めているそうです。カラオケも人気があるのですが、どんなふうに場を持てば、不満が最小限で参加されたみなさんが「楽しかったね」と満足できるのか…よい場の作り方を教えていただけたらうれしいと話していました。


問い合わせ先 TEL024-983-1157 特定非営利活動法人コースター


●取材を終えて●
なかネットの理事としてどんなに細々でも中間支援の活動をしようと、さまざまな団体の後方支援を続けていた岩崎さん。結果としてそれらは、震災後の同時多発的な支援活動につながり、さらにはNPO法人コースターを立ち上げる原動力にもなりました。田村市都路地区での事業は、住民のみなさんが成功体験を地道に積み重ねながら、復興と新たな地域づくりにチャレンジして行けるよう側面から支援するという画期的な取り組み。高校生や中学生が良いロールモデルに触れながら自身の思いやビジョンを明確にして、職場や地域で主体的に動けるような人材を育てるキャリア教育事業にも頼もしい明日を感じます。もしかしたらコースターの取り組みそのものが一つのモデルになっていくのかも。コースターから目が離せません。(kamon)


団体名 特定非営利活動法人 コースター
代表者 代表理事 岩崎大樹(いわさき たいき)・羽鳥 圭(はとり けい)
設立時期 2012年10月(法人格取得時期2013年3月)
主な資金源 会費、寄付、自主事業、委託事業、補助金・助成金、その他
所在地 〒963-08711 福島県郡山市富久山町久保田字下河原191-1
TEL 024-983-1157 FAX 024-983-1158
URL http://costar-npo.org
E-mail info@costar-npo.org
■県内外からの支援活動についての問い合わせや相談について
・県中地域のNPO(とくに子育て・子ども支援、就労支援等)とのボランティアマッチング(随時)
・田村市復興応援隊の活動に併せて「住民の方が楽しめる場を作ること出来る」など専門的なスキルを持っている人材を求めています。また、郡山事務所の事務・経理作業など内容に応じて有償・無償のボランティアを募集しております(随時)。
■現在、共に活動しているNPO法人、市民活動団体等
関連団体
・福島県中地域NPOネットワーク http://naka-net.org
・SNCぴーなっつ http://snc-peanuts.com
市民セクター
・一般社団法人ふくしま連携復興センター(会員)
・社会福祉法人福島県社会福祉協議会
・NPO法人ビーンズふくしま
・NPO法人ETIC
・NPO法人市民公益活動パートナーズ
地域団体
・富久山町商工会(会員)

主な支援事業

◎田村市復興応援隊(2013年7月~)

  • ※1「おだがいさまセンター」
    福島第一原子力発電所に隣接する富岡町と川内村の両社会福祉協議会が、ビッグパレットふくしま内に開所した生活支援ボランティアセンター。
  • ※2「ふくしま連携復興センター」
    東日本大震災に伴う被災した地域および被災者自身の自立的な復興を目指し、様々な支援のコーディネートやネットワークづくり、情報提供・情報発信、事業連携・協働推進を支えるべく活動している。2011年7月発足、同年12月に法人化。連携復興センター(通称れんぷく)は岩手、宮城にもあり定期的に連絡会議を開催している。
  • ※3 ふくしま復興支援学生ネットワーク
    東日本大震災後に福島県内8大学5専門学校の学生が集まり、被災地・避難者の継続的な支援活動を目的として設立したネットワーク。
  • ※4 田村市都路地区
    避難者数2,279人(666世帯)※田村市災害対策本部調べ(2013年7月31日現在)。東京電力福島第1原発事故で避難区域となったが、2011年9月、原発30km圏の緊急時避難準備区域が解除された。2012年4月、原発20km圏の警戒区域が避難指示解除準備区域に再編された。今年6月、国直轄の除染が終わり、来春以降の避難指示の解除が検討されている。

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