社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

新地町社会福祉協議会

2018/04/11
 

仮設住宅の生活音トラブルを誰も傷つけることなく円満解決


テーマ 住民との距離感・関係性(住民トラブルの立ち位置)
社協名 新地町社会福祉協議会
時 期 平成23年秋
場 所 応急仮設住宅


【背景】

  • 新地町は、東日本大震災の津波で町の5分の1が浸水。119人の方が亡くなられた。家屋は約630世帯が全・半壊となり、平成23年4月から仮設住宅への入居が始まった。町内に建設された仮設住宅には多い時で8カ所470戸、約1,500人が入居した。
  • 仮設住宅には高齢者世帯、若い世帯、独居世帯、家族世帯が混在していた。それぞれに生活時間が異なるため騒音等によるストレスが住民を苦しめていた。
  • 辛い被災体験、慣れない仮設住宅での生活によるストレスで、些細なきっかけから住民トラブルに発展することも多かった。


【取組み概要】

  • Aさん(80代男性)は津波で自宅を失い、避難をきっかけに仮設住宅で娘と孫と同居することになった。3人の暮らしは良好だったが、娘と孫が仕事に出かけると日中は一人で過ごしていた。
    引っ越して2カ月ほど経った秋頃、Aさんは隣家から聞こえる音にストレスを感じるようになった。相談員に「隣りのB家が夜中に大工仕事をしていてうるさくて眠れない」と訴えがあり、その後も訴えは続いた。

    新地町に整備された仮設住宅
  • 相談員は事実確認のためAさんの家族に話を聞くと、同居する娘はB家の音に不満を感じていなかったが、「隣家に怒鳴り込む」「警察に訴えたい」と激昂するAさんを近所に住む甥が説得して思いとどまらせたことがあるとのことだった。しかし、もともとAさんは朗らかな性格であり、お酒が好きで昼間に飲酒していることが多いが、たしなむ程度で家族や近所に迷惑をかけることはない方だった。
  • 相談員は上司と仮設住宅の自治会長に状況を報告。地域包括支援センターや保健師、相馬広域こころのケアセンターと情報共有をし、Aさんの訴えの信憑性も含め、協力して状況を確認した。
    B家は40代の夫婦と子ども3人の5人家族。平日の日中は不在で相談員が訪問するのが困難な世帯だったことから、自治会長がB家の妻に状況の確認をした。すると夜間に洗濯をすることはあるとのことだった。Aさんは早めに就寝することから午後9時頃の生活音を、夜中に大工仕事をしていると感じていたのかもしれないと相談員は考えた。
  • 専門職からAさんの訴えは病気が原因ではないと報告を受けると、自治会長にAさんとB家の話し合いの仕切り役を依頼した。
  • Aさんの娘、Bさん夫婦、自治会長の三者で話し合いが行われ、B家は午後9時以降に洗濯をしないこと、Aさんはトイレなどの生活音は大目に見るなど、音の漏れやすい環境で生活する上でのルールを決めた。高齢のため話し合いには参加しなかったAさんには、娘から説明をした。その後、Aさんからの訴えはなくなった。また、同じ仮設に同郷の仲間が転居してきたこともあり、集会所前の共有スペースで仲間と談話するAさんの姿が見られるようになった。


【工夫】

  • 仮設住宅にはコミュニティづくりや困りごとの解決を担う自治会が設立していたため、すぐに会長に相談し仕切り役になってもらった。相談員は一歩引いた立ち位置で支援を続けることにし、AさんとB家の話し合いにも参加はせず、他機関と連携して情報収集するなど自治会長のバックアップに努めた。


  • 相談員は中立の立場。一方の言い分を支持していると誤解されないようにさまざまな可能性を想定し、関係機関と連携して慎重に事実確認をした。
  • 相談員はこの間も通常の見守り訪問活動を続け、訪問の際に同じことを繰り返し訴えるAさんの話を丁寧に傾聴しAさんを安心させる事を心がけた。


【効果】

  • 住民間トラブルというデリケートな問題を、誰も傷つけることなく、関係を壊すこともなく穏便に解決することができた。第三者が仲裁に入ることで冷静に話し合いができ、AさんとB家はその後も関係がこじれる事なくご近所関係を続けることができた。
  • トラブル解決に至る経過を経ても、相談員とAさんは良好な関係を維持することができた。そのため災害公営住宅に移った現在も円滑な支援を続けることができている。
  • 取り組みをきっかけに、自治会長や専門職など多様な目がAさんに届くようになった。心のケアセンターは月に数回開催していたお茶会で、保健師は訪問の際にさりげなくかつ丁寧に様子を診てくれている。話を聞いてくれる人が増えたことでAさんのストレスが和らいだ。

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