社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

Vol.34 吉田 昂城(ウィーン国立音楽大学)

2017/11/15
 

みなさん、こんにちは
福島県浪江町出身の吉田昂城です。
今回の「福島からのラブレター」は、9月23日に相馬市の音屋ホールで開催した初めてのピアノリサイタルのことを綴りたいと思います。

僕は、3歳からピアノを始めて、将来はピアニストを夢見ていました。ところが2011年3月、中学3年生の時に大震災と原発事故が起きました。途方に暮れながらも南相馬市鹿島区の借り上げ住宅に移ってからは、母親の実家に愛用のピアノを運び入れて練習していました。その年の夏、全オーストリアのロータリークラブと2530地区(福島県全域のロータリークラブ)共催の短期派遣「被災高校生招待プロジェクト」を知り、あこがれていた音楽の都オーストリアに行きたい一心で応募しました。なんとメンバーに選ばれ、2011年3週間オーストリアに滞在することができました。

帰国後、あるパーティでピアノを披露したことがきっかけで、今度は留学の道が開けました。それから本当にたくさんの方々のお世話になり、2013年、高校2年生の時に飛び級でオーストリアのリンツにあるアントンブルックナー私立音楽大学に入学しました。2年後、ウィーン国立音楽大学ピアノ科に合格することができまして現在3年目です。

今回のピアノリサイタルは、夏休みで帰国することを機に、ロータリークラブの有志の皆様が実行委員会を立ち上げてくださったことから実現しました。当日は、大勢のお客様に聴いていただくことができ、今も感謝の気持ちでいっぱいです。

プログラム全4曲とアンコールの1曲は、全部自分で決めました。特に最初に演奏したベートーヴェンの「ピアノソナタ31番 作品110」は、僕の一番好きな曲です。幾多の困難を乗り越えてきたベートーヴェンが晩年に作曲したこの曲が、大震災と原発事故で被災した私たちの気持ちに寄り添うのではないかと思って選びました。ベートーヴェンの生涯は、必ずしも恵まれているとは言えないものでした。この曲を作曲した時には、すでに耳は聞こえていなくて、落胆と苦悩の連続で疲れ果ててしまったという状況が表現されています。でも、最後の第三楽章のフーガの部分で、すべての苦悩が浄化されていくというか、楽譜に記されている発想系指示記号にも「生き返る」というような意味合いにとれる記号が書かれているのですが、どんなに辛くても最後は、光に満ちあふれるのだというこの作品を、ぜひ皆様の前で弾きたいと思いました。

僕は、本当に弾くだけなのですが、演奏を聴いてくださった同じ浪江出身の方から「元気をもらいました」とお声がけいただいたり、中学時代の恩師から「ぜひまた演奏会を」と頼まれたり、本当にうれしい限りでした。リサイタルで頂戴した温かい拍手と激励にはいくら感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。

ピアノは、弾き手の魂がこもる本当に不思議な楽器です。僕は、さまざまなことにチャレンジしながらずっとこの不思議な楽器と共に生きていきたいと思っています。願いを叶えるためにも今は、一心不乱にピアノを勉強することを自分に課しています。そして、また僕の演奏を聞いていただけるチャンスに恵まれました日には、今回以上に、心に響く演奏を届けたいと思っています。この手紙が皆さまに届く頃、僕はウィーンの空の下にいますが、心はいつも故郷を思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。


プロフィール

吉田昂城(よしだ こうき)
1995年12月11日福島県浪江町生まれ、21 歳。
相馬東高校1年の時にロータリークラブのプロジェクトでオーストリアへ短期派遣。
同校2年の時にオーストリアに留学。現在、ウィーン国立音楽大学ピアノ科在学中。

2017年9月23日に開催した初リサイタル。会場:相馬市「音屋ホール」



母親とツーショット

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