社会福祉法人 福島県社会福祉協議会 避難者生活支援・相談センター

特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊

2017/06/21
 

見て、聞いて、語り合うバス視察で大熊の声、
自分たちの声をもっともっと上げて行こう!!


町民の約96%が暮らしていた地域が帰還困難区域に指定されている大熊町は、現在も全町民が避難を余儀なくされています。時間の経過と共に変わって行く町の様子を伝える一助になればと始めたスタディツアーを皮切りに、町民向けの町内バス視察、通信の発行など、町民自らによる活動を通して、ふるさとの元気と希望を発信している特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊の取り組みをご紹介します。


報道では伝えきれない大熊町の様子を伝えたい


特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊(以下、応援隊)は、平成26年に誕生しました。理事11名、監事1名で活動しています。理事長の渡部千恵子さんに設立のきっかけを伺うと「保育士として町に勤務して平成24年に定年退職しました。その後も何か役に立てることがあればと思って」と話してくださいました。

町内を巡るバスツアーは、法人設立の準備段階から考えていた事業でした。報道では伝えきれない町の様子を実際に見ていただき、復興への支援や理解を得たいと考えたのだそうです。最初に取り組んだ「福島・大熊町スタディツアー」は、全国から広く参加者を募りました。居住制限区域にも入り福島第一原発へ冷却水を送る坂下ダムや、人気のない町内を見た後で、大熊を離れて避難先で暮らす町民と交流する時間も設けました。現在は、主に小グループの案内と大熊町民を対象にバス視察を実施しています。「大熊町に一時帰宅※しても4~5時間と滞在時間が限られるので、結局、自宅の掃除などで終始してしまうんですね。一時帰宅だけでは立ち寄れない場所も自分の目で見てほしいと考えるようになりました。ちょうど復興庁の『心の復興』事業が始まるとき、大熊町住民によるまちづくりワークショップと現状視察事業を申請したところ採択されました」。

※大熊町は1世帯あたり年間30回まで一時立ち入りが認められています。

▲左から特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊 理事内山佐代子さん、
理事長渡部千恵子さん、理事・事務局長本田紀生さん


同じ想いを持つ住民が交流し、語り合うバス視察

平成27年から始まり2年間で計16回開催している「大熊町 町内バス視察」は、町民が対象に、町の復興という同じ想いを持った住民同士が交流し、ともに前を向いて動きだす事で、住民の「心の復興」にも役立ってほしいと思っています。

当日の行程は、まず大熊町内の帰還困難区域を回り、大川原地区に戻ったところで昼食。その後、現地連絡事務所の職員から現状の説明を受け、質問や意見の交換。大川原地区と東京電力で働く皆さんの食事を作る福島給食センターを経て小山浄水場(木戸ダム)の視察となります。「久しぶりに会う人も多いのでバスの中は思い出と笑い声に包まれます。町に入ると、晩秋なら熊川に鮭が遡上する様子や越冬のためにやってくる白鳥の姿に歓声を上げたり、『変わらないねえ』としみじみと見入ったり…皆さん思い思いに過ごされています」と渡部さん。一行は、中間貯蔵施設
※の整備が始まったところも回ります。なかには、「大熊町で生まれ育ったけれど、ここに来るのは初めて」という方も。

特に変化が著しいのは、中間貯蔵施設の予定地です。「梨畑だったところが1カ月後には、一面アスファルトになっていたことがありました。何度も足を運んでいる私たちですが、そのスピードにビックリする時があります」と渡部さん。
※除染で取り除いた土や放射性物質に汚染された廃棄物を、最終処分するまでの間、安全に管理・保管するための施設。

▲町内視察のひとコマ。
参加者の年齢は30代から90代と幅広い。中心となるのは60代から80代
(写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊)



▲東京電力の廃炉作業現場で働く方々の食事を毎日約2,000食作っている福島給食センター。
「将来、給食センターで働きたいなあと思って参加しました」という方もいらしたそうです
(写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊)


▲(左)中間貯蔵施設予定地の一角
▲(右)中間貯蔵施設予定地の一角。元々は梨畑だった
(写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊2017.6.2.撮影)


変化が著しい大川原地区は復興の拠点

大川原地区も復興に向かって変化し続けている地域です。東京電力の社員寮など、新しい建築物が多いので、毎回現地連絡事務所の職員が説明します。町役場や復興公営住宅の建設、町営墓地の整備計画などの話に耳を傾けながら「そうか、あと3年待てばいいのか」と、将来に向かって思いをめぐらせ始める方もおられるそうです。「一方、町外に自宅を再建したけれど、新しい土地で生きて行く踏ん切りがつかずにいらした方が、バス視察で実際に見ることで『避難先でがんばろう』と思いを新たにすることもありました。みなさん本当にそれぞれです。そして、どの決断も尊いです」と渡部さん。



▲大川原地区に完成した東京電力社員寮
(写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊2016.6.22.撮影)


大熊町の将来を語り合うワークショップ

住民自ら復興を考えるワークショップは、未来の大熊町をざっくばらんに話し合う場です。その様子を事務局長の本田紀生さんは、こんなふうに話してくださいました。「最初は『戻れないよ』とおっしゃる方が多いのですが、打ち解けてくると『こういう町だったら帰れるね』『こんな町にしたいね』など、建設的な意見が出てくると空気が変わります。厳しい現実もありますが、東京オリンピックまでに常磐線を通すという話を聞いたり、いい意味で目指す方向が見え始めた大川原地区の様子が分かってくると『ほかの帰還困難区域もちゃんと除染をしていけば、住めるようになるんじゃないか』というような声もでてきます。年配の方が心配されている介護施設やお墓のことも見たり、聞いたり、話をしたりする中で光が見えてくるんだろうと思います。表情が変わってきます」。

応援隊は、ワークショップで上がってくる貴重な声をまとめて年に1回から2回、町に報告しています。町が行うアンケートもありますが、思いのすべてを書くことは難しいと渡部さんは話します。応援隊は、人々の揺れ動く複雑な気持ちや伝わりにくい小さな声も丁寧に集めて行政に届ける重要な役目も担っているのです。さらに本田事務局長は、こうも続けました。「国や環境省は、明確な復興のビジョンを出せば除染をすると言っています。町民の声を行政に伝えて一緒に大熊町を作っていくことが大切なので、これからはもっとどんどん声を出していかなければと思っています。何よりも大事なのは町民の声。行政も国もそれがあって動くわけですから」。

最後にこれからのことを内山理事に伺うと「ワークショップとバス視察は、継続して行きたい」と話しました。3年目になる今年の町民対象のバス視察は、定員20名、参加費無料はそのままにプログラムの一部が少しブラッシュアップされました。これまでは、一時立ち寄り所でお弁当を食べていたのですが、今年から東京電力の社員寮生向けの「大熊食堂」になりました。「バス視察には、生活支援相談員さんも参加されることがあります。いいことだと思っています。訪問活動の際に、大熊町のリアルな変化を伝えることができればこれまで以上に親しみをもって寄り添えますよね」と内山さん。7月、10月、11月のバス視察に参加を希望される方は、理事長の渡部さんまで連絡してください。



▲ワークショップの様子 (写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊 左2016.9.17、右2015.7.30.撮影)


▲バス視察の昼食会場。東京電力の社員寮生向けの食堂「大熊食堂」
(写真提供:特定非営利活動法人大熊町ふるさと応援隊 2017.6.2.撮影)


▲大熊町管内図 (大熊町HPより)


▲町内バス視察の参加者募集チラシ。今年度は、計8回のうち6月2日・7月7日・10月6日・11月10日の4回を計画しています


2017年1月に発行された第7号。ワークショップで上がった町に対する質問や要望とその回答などがつづられています


■連絡先■

〒963‐7741 福島県田村郡三春町八島台4-3-6
代表 渡部千恵子
TEL 080-3145-7926
E-mail npookuma@gmail.com
URL http://ameblo.jp/nopokuma

■取材を終えて■

バス視察で特に印象に残っていることを代表の渡部さんに伺うと、二人の女性の話をしてくださいました。お一人は、すでに2回も視察に参加されている94歳の女性。階段の上り下りもエレベーターを使わず足腰シャンシャン。ユーモアもたっぷりで、みんなを笑わせてくださっているそうです。

もうお一方は、避難中に旦那様を亡くされた女性。大川原地区を眺めながら、この地にできるという町営墓地に旦那様のご遺骨を埋葬し、自身は復興公営住宅に住み毎日散歩しながらお墓参りをしたいとおっしゃったそうです。渡部さんは、普段なかなか聞けないことを、そういうふうに思っている人の存在を、行政に届けるのもまた自分たちの役目と話していました。

ターニングポイントにもなるというワークショップとバス視察。故郷を見て、聞いて、語り、分かち合うことで心にたまるものが背中を押すのかもしれないと思いました。
(井来子)


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