「HOHP(ホープ)」主催「男の木工」教室 | はあとふる・ふくしま

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「HOHP(ホープ)」主催「男の木工」教室

2017/03/29
 

プロによる指導のもと、
クオリティの高い木工作品を製作し
地元の復興に貢献

今春、県内4町村の避難指示が解除になります。対象者は約3万2,000 人です。震災から7年、仮設住宅から災害公営住宅などへの住み替えが進む一方で、転居後は住民の顔が見えにくい、孤独、孤立など新たな問題が生まれています。長期にわたる避難生活で体調を崩すなどして亡くなる「震災関連死」は今も増え続けています。改めて支援に必要な発想、連携のヒントを求めて南相馬に向かいました。引きこもりがちな男性を外に誘い出そうと有志で「HOHP(ホープ)」を立ち上げ、「男の木工」教室を催している南相馬市立総合病院に勤務する医師、小鷹昌明さんの貴重な気づきをお届けします。


シニア世代の男性たちが心配。引きこもり・
お父さん・引き寄せ・プロジェクト立ち上がる

栃木県の大学病院に勤務されていた小鷹昌明さんが前職を辞して、南相馬市立総合病院に勤務されるようになったのは、2012年4月のことです。「H=引きこもり・O=お父さん・H=引き寄せ・P=プロジェクト」の頭文字を組み合わせて名付けられたHOHPは、在宅診療部で定期的に開催しているミーティングから生まれた取り組みです。仮設住宅の集会所でお茶会やハイキングなどを催しても顔を出してくれるのは圧倒的に女性。男性が少ないことからそこを何とかできないだろうかという話になったそうです。「男性は、特に熱心に仕事をしていた人ほど、それを無くしたショックが大きく中には将来の展望を描けない人がいます。新たなコミュニティを築けないシニア世代の男性たちを心配する声が高まり、具体的な候補として上がったのが木工教室でした」と小鷹さん。

震災前、第一次産業や製造業に従事していた中高年男性に「今、何がしたいか」と尋ねると、その多くは土いじりや創作だったとのこと。「振り返れば僕自身も、工作とか木工に凝ったことがあります。そうだよ…少年時代にプラモデルを作らなかった男がいるか…と思ってプランを練り始めました」。小鷹さんがあれやこれや考える中で、最も大切にしたのが継続していくための仕組みづくりです。「ものづくりに関わってきた人のマインドには、例えば野菜作り一つとってももっといいもの、おいしいものを作りたいという気持ちがあるはず。それと復興には長い時間がかかります。続けていくためには、仕事もしくは、自立していけるような仕組みが必要です。ちょっとずつでもスキルアップしていく方が、モチベーションにもつながると考えました。そして、やるからには、一般の雑貨店やインテリアショップにあっても遜色ないものをと思いました」。


南相馬市立総合病院医師 HOHP(ホープ)代表 小鷹昌明さん。
エッセイストでもあり、南相馬市に居を移してからは3年連続で
「相馬野馬追」に出陣している


「男の木工」教室のチラシ


南相馬市内の工場の一角をお借りして活動している「男の木工」教室。製作中の本棚は、地元の市民団体からの依頼を受けたもの。仕上げの塗装に入る前にサンドペーパーをかけホコリをふき取る皆さん


作品はすべて刻印を押して納品される


人脈を総動員させ本格的な木工道具を準備
全建総連原町の協力を得ていよいよスタート!

願いは届き全国建設労働組合総連合原町(以下、全建総連原町)の皆さんが交代で木工製品づくりの指導をしてくださることになりました。俄然勢いづいた小鷹さんたちは、人脈を総動員させ金づちやのこぎり、カンナ類はもちろん、インパクトドライバー、電気丸鋸、自動カンナ、電動工具ジグソーなど本格的な道具も用意しました。作業場は、南相馬市内で店舗内装業を営む工場の一角をお借りするという目途がついたところで、初注文まで舞い込むという幸運にも恵まれました。

2013年1月、いよいよHOHPと全建総連原町が主催する「男の木工」教室(参加費無料)が始まりました。記念すべき第1回目には、2人が参加しました。翌週は、4人に増えました。その後もじわりじわりと増え1年が経過した頃の参加者は、30代から80代まで15人。見学や取材など1回限りを含めると参加者数は、のべ100人を超えるまでになりました。

4年目に入った現時点での納品先は、市内約20カ所。作品も小高区役所内カフェ「いっぷく屋」にテーブル、南相馬アグリパークにベンチ、小高小学校仮設校舎に本棚と足台、銘醸館によろい立てなど多岐にわたります。基本的に注文の受け付けの最優先が公共施設の備品などという約束があり、完成した木工製品はすべて無償。謹呈という形で納品してきました。参加者の報酬はなし。材料費は?と尋ねると、助成金と寄附で賄っていると教えてくださいました。

これまでに納品した作品の中から。写真左は、NPO法人ほっと悠の小高営業所「あゆみ」に納品した高齢者向けのローテーブルとチェアー。右は、住民交流スペース「おだかぷらっとほーむ」に収めた棚。プレハブの仮校舎で勉強している小高小学校に本箱を納品した時は、「子どもたちのために何か作らせてもらえませんか?」と訪ねて行きニーズを把握。お孫さんのためにと奮闘した方もおられたとのこと(写真提供:HOHP)


挑戦したくて通っています。完成した時の
達成感がいい。喜んでもらえるのもうれしい

木工に魅了され通い続けている皆さんにもお話を聞きました。知人の紹介で通うようになったという元会社員の男性は「経験なしの初心者です。でも、毎回プロに教えてもらえるので最近は、腕が上がってきたように思います(笑)。いろんな人と話も出来るので毎回来ています」とおっしゃっていました。遠洋漁業船に乗っていたという男性は、「自分は何でも挑戦したいタイプ。木工は、丁寧に仕事をするほど仕上がりがきれいになります。完成した時の達成感。やり遂げたという感覚もいい。何よりたくさんの人に喜んでもらえるのがうれしい」とのこと。

興味、関心のある人ならだれでも参加できる教室には女性の姿もあります。ものづくりが大好きで、電動工具を使ってみたくて参加するようになったという女性は「インパクトドライバーの使い方がうまいとか、ほめられるとうれしくって」と満面の笑み。「『上手だからやって』と頼られるのもうれしい。それと男性の中に女性がいると雰囲気が和らぐみたいで会話が生まれるんですよ。みんなで過ごす時間も楽しくて通っています」と教えてくださいました。

▲部品探し。「これでいいかな」「いいと思うよ」


▲そろそろ仕上げの塗装に入りますか?


▲飛び入り参加の若い女性(研修医)にインパクトドライバーの使い方を伝授。失敗は成功のもと。大丈夫。大丈夫

▲ほぼ全ての図面を描いてきた小鷹さん。全建総連原町から交代で来てくださるプロに指導を仰ぐことも


▲完成したキャスター付きの本棚の前で。「男の木工」ののぼり旗と共に。この日は男性6人、女性4人の参加でした。「全員男性よりも女性が入ると場が和みます。男性4人に対して女性1人くらいがちょうどいいようです」と小鷹さん


作業の様子①

作業の様子②

作業の様子③


男性が立ち直るために最も優先されるべきは自負の再取得
地元の復興に自分が役に立てるという自尊心の獲得です

ところで参加者も増え順調に活動を続けていた木工教室ですが、半年が経過した頃、小鷹さんにはちょっとだけ気がかりなことが生まれました。コミュニティの創出を目的に活動しているわりには、作業に没頭する皆さんは寡黙。現場には工具の音が鳴り響くだけ。これでいいのかと思ったのだそう。「しかし仕事は緻密。作品が完成した時の皆さんの笑顔は格別でした。それで気づいたんです。もしかしたらこれが厳しい自然と真っ向勝負しながら生きていた男たちの自然な姿なんじゃないかって。そこには、『他人をおもねる』とか『意見をすり合わせる』なんてない。ただ、黙々とよいものを作る。目の前の男たちの姿こそ、当たり前なんじゃないかと思うようになったんです」。

深く掘り下げるほどに、自分たちは何か勘違いをしていたかもしれないと考えるようになったという小鷹さん。「もしかしたら引きこもりから引き出し、コミュニティを創出させるなどというのは、僕らの行き過ぎたおせっかいだったのかも。男性たちに必要なのは、コミュニティでも絆でも、まして語らいの場でもなく、“没頭できる何かだ”と、この時確信しました。優先されるべきは、地元の復興に自分が役に立てるという自尊心の獲得。そして、何よりも自分の役割が明確にあり、そこに居場所があるということです」。

胸がすくような気づきとともに、次から次へと舞い込む注文に夢中で応え続け、気がつけばカレンダーは、2016年の暮れになっていました。参加者が少しずつ減りはじめていることに気づいた小鷹さんは、こう切り出しました。「間もなく丸3年になります。ちょうどいい節目にもなるので、今年度をもって終わりにしてもいいんじゃないでしょうか」。すると、全員が反対したことからあっけなく継続となりました。「作らせていただき皆さんのお役に立てることで、メンバーが士気を高めていけるのならそれでいい。それが『男の木工』の全てだと思いました」。


小鷹流、企画立案のコツ

これまでのことを小鷹さんは「たまたまいくつかの幸運が重なり、予想外にうまく行っていますが、これがよその地域でも成功するかといったら、それは分かりません」と話します。しかし、復興の過程で男性がいかに立ち直っていくかというのは、どの地域でも考えること。その中でHOHPの取り組みが役に立つならこんなにうれしいことはないとも話してくださいました。実は小鷹さん、木工教室のほかにも「男の料理教室」や「パトロール・ラン&ウォーキング」「エッセイ(を書く効用)講座」など、気負わないキャラクターで多彩なプロジェクトを展開している強者です。「男性の趣味は多様なので、一つのテーマでまとめようとするのはもともと無理。多様なプログラムを届けることが必要なんだと思います」と小鷹さん。企画立案のコツも伺いましたので以下にまとめます。ぜひ、参考になさってください。

失敗して得た教訓

●実は、失敗もたくさんしています。失敗で得たのがお任せではなく、自分の足で歩いて情報を得て、人、モノ、コトを繋いでいくという教訓です。

13回続けた男の料理教室

●何か始めようとする時には、多少なりとも戦略が必要です。まず、今のニーズは何か考える。次にどんな人に相談したら今温めているプロジェクトが現実味を帯びてくるか考える。「男の木工」は、地元の大工さんに声をかけたところから始まりました。避難解除になる前の小高区で「男の料理教室」を開催したときは「昔の味を懐かしむ」をテーマに小高区で飲食店を営んでいた方や有名な洋菓子店の方に講師をお願いしました。小高区出身でサッカー日本代表の専属シェフ、西芳照さんをお呼びしたこともあります。その時は、60人ぐらい集まりました。ロマンというか、ストーリーがあると参加したい気持ちが膨らむと思います。

エッセイ講座・山登り・ランニング

●飲んで歌ってストレスを発散できる男性って少ないと思います。月1回開講している「エッセイ(を書く効用)講座」は、すでに54回続いているロングラン講座です。書くことで考えを整理できたり、心もスッキリするので、「自分の思っていることを文章にしてみましょうよ」というコンセプトで始めました。男性も通ってくださっています。自分史を書きたいと言っている人もいます。山登りは、数回開催しました。ある時「一人で登ればいいんだけど、たまにはみんなで…みたいな感じで参加しました」という方が来られました。一緒に登りながら仲良くなれた人がいたようで「元気が出てきました」と言って帰られました。
「パトロール・ラン&ウォーキング」は、軽犯罪が問題になった時期があって、ランニングチームを作ってパトロールランニングをすることになりました。お揃いのTシャツを着て月1回ですが、無理なく続けています。2017年3月19日に単発で開催した「南相馬市“避難解除”復興祈念駅伝トライアル」は、分断されていた鹿島区、原町区、小高区を1本のたすきでつなごうと企画しました。地元の人のほかに県外からボランティアに来ている人から「もっと役に立ちたい」と申し込みがあり、トライアルが地元と県外の人たちのつながりが生まれる場にもなることに気づきました。当日は、60人に達する協力のもと開催しました。何が言いたいかというと、山登りもエッセイもランニングも、プロジェクトごとに対象者が違うということです。マンパワーの問題もありますが、選択の幅を広げておくと「参加してみたい」と思う人が増えます。これからもおしゃべりをしなくても、自分から動くことができて、そこに居られて、目標となるものが見いだせるもの提供していきたいと思います。


E-mail odaka.masaaki@gmail.com



■取材を終えて■

にこやかにこれまでやって来られたことを話す小鷹さんの魅力は、何の気負いもないところです。自然体でさらりと人と人を繋いでいくところも心憎い。せっかく南相馬に赴任してきたのだからと相馬野馬追に出たいと心に決めた時もそうです。

馬を引く役割を与えられ2013年の夏、参加するも「やはり馬に乗るべきだった」と大後悔。翌月、早朝5時半からの乗馬訓練をはじめるのですが、その時も人と人のつながりで遂に神旗争奪戦にも出てしまいます。男の料理教室も然り。「小高区再生のために」と、あれやこれや考えながら勤務先の管理栄養士の女性3人を巻き込み、せっかくだからとサプライズとして地元の有名洋菓子店に特別スイーツを依頼。告知もあらゆる方法で行った結果、「広報紙に載っていたので」とか「社協さんに勧められて」とか…口コミも手伝ってあれよあれよという間に参加人数が膨れ上がり、関係者含めて60人が美味に舌鼓を打ったと話してくださいました。せっかくだから走ってみよう。せっかくだから登ってみよう。せっかくだからクオリティの高いものを作ろう。この知的好奇心こそ、アイデアの源なのかもしれません。そして、喜ぶ参加者の顔がしっかりと見えていれば、プランは無限に湧いてくるのだと思いました。

(井来子)




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