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一般社団法人ふくしま学びのネットワーク

2017/02/03
 

「今こそ学ぶんだ。それが復興につながる」
かっこいい大人たちと連携しながら学ぶことと
多様性を大切にする文化を福島から発信!


 一般社団法人「ふくしま学びのネットワーク」(平成26年4月設立)は、福島県から新しい教育と学びのあり方を創造し、発信している団体です。

 理事・事務局長を務める前川直哉さんは、兵庫県の出身で灘高等学校3年生の時に阪神・淡路大震災を経験しました。その後、灘中学・高校で教員生活をおくっておられましたが、東日本大震災を機に教職を辞し福島に移住。以来、高校時代の恩師の言葉「今こそ学ぶんだ。それが復興につながる」を胸に、職種も様々なかっこいい大人たちと連携しながら子どもたちに多様な学びの場を提供しています。

 活動を始めてから間もなく3年になる前川さんに、ふくしま学びのネットワークの今とこれからを伺いました。


「セミナー・合宿」「大学生メンタープログラム」「高校生 社会活動コンテスト」


 ふくしま学びのネットワークは、「セミナー・合宿」「大学生メンタープログラム」「高校生 社会活動コンテスト」の3本の柱を掲げて活動しています。

 「セミナー・合宿」の一つ「夢をかなえる勉強法」は、これまでに約1,350名が受講した福島の高校生のための無料セミナーです。全国でも指折りの超一流の先生方が、交通費も謝礼も不要と毎回手弁当で来てくださっています。英語、現代文、数学の定員がそれぞれ100名から200名と大所帯になるセミナーには、うれしい応援もあります。福島県内、山形、石川、東京、大阪などからこの日のために駆けつけてくれる先生方がいて、会場設営や受付、片付けなどのサポートはもちろん、学校内の掲示板にチラシを貼ってくださったり、生徒に「面白いから行ってごらん」と薦めてくださったり、告知も含めてたくさんの方々が支えているそうです。

 高校生のための無料セミナーは、福島市、郡山市、いわき市などですでに8回開催しています。「どの会場でも子どもたちは、嬉々とした表情でハイレベルな問題にチャレンジしています。リピーターが多いというのもうれしい。内容がしっかりしている証です」と前川さん。

 「大学生メンタープログラム」は、大学生がメンター(助言者)となって、高校生からの学習法・進路などの相談にのるプログラムです。東京大学REASEプロジェクトと連携し、福島県内の高校のほか、公民館など公共施設を利用して実施してきました。「高校生 社会活動コンテスト」は、「福島の高校生が、日本を元気にする」を合言葉に、前述のREASEプロジェクトと共同主催で、ボランティア・社会貢献・復興・国際交流・まちおこし・製品開発など、県内の高校生の社会活動を対象にコンテストを毎年開催しています。



▲平成29年1月9日に開催された「夢を叶える勉強法8」高校生無料セミナー。講師は、皆さん全国でも指折りの先生方で、「教え方の勉強になる」とお手伝いを兼ねて参加される先生もおられるそうです。この日、時おり笑い声に包まれていた『ユメタン』シリーズの著者、木村達哉先生(灘高校)の英語の授業では、「覚えようとすると辛いだけ。繰り返し、繰り返しが大事」「ええか、文法はルールの確認。これができたから英語ができることにはならない。文法は正確さを試されるもの。『なんでやねん』『なんでお前にそんなこといわれなあかんねん』と、問題に自分で突っ込みを入れながらやる」など、木村先生の名言が飛び交っていました





▲平成28年9月25日、福島テルサで開催された2016「ふくしま高校生 社会活動コンテスト」で活動を発表しました 写真提供:ふくしま学びのネットワーク




▲平成28年11月26日、社会活動コンテストで最優秀賞・優秀賞を受賞した高校生が、東京大学本郷キャンパスで開催されたふくしま学びのネットワーク・東京大学REASE 共同主催の公開講座「福島の高校生が日本を元気にする 3」で発表しました 写真提供:ふくしま学びのネットワーク



「東北訪問合宿」から見えてきた福島の強みと弱み


 3本の柱に込めた願いを尋ねると、福島に移住する前から灘高の生徒たちと続けてきた「東北訪問合宿」が基になっていると前川さん。「合宿では、生徒たちと一緒に被災地で活動するいろいろな『かっこいい大人』のお話しを伺いました。そのなかで首都圏や関西と福島の違いは何かと考えた時に、強みと弱みがあるなと思ったんです」。

 まず弱い部分は、学校以外の教育機関が少ないことだと言います。「大学の数も少ないですよね。後輩の医師が調べたのですが、18歳人口を分母にして18歳人口の中の大学生の数をみると福島は、47都道府県中47位でした。僕は、みんながみんな大学に行くことが正しいとは思わないのですが、選択肢の一つとしてもう少し身近にしたいと思いました。そんなわけでセミナーと大学生メンタープログラムは、わりとすんなり決まりました」と前川さん。

 逆に強みは、高校生が様々な場面で活躍していることだと言います。その理由として、震災時にしっかり守られた子どもたちが、同時に多くの人が支えてくれた姿も見ていて、いつも誰かを支える立場になりたいと思っていることがあると話します。
「もう一つは震災、風評、さらには過疎など目の前に課題が山積していて、子どもたちはいつも自分たちに何ができるか考えています。首都圏や関西だったら大学生がやるようなことを、福島では高校生が取り組んでいるんですよね」。例えば、高校生が地元の温泉地の復興に向けて地熱を利用したをしたりり、福島県内外で放射線量を測る線量調査を行ったり、ほかにも県内様々な高校で生徒たちが活躍しています。
「中身もレベルが高いですよね。今、福島の高校が取り組んでいることは、文部科学省が目指している課題解決学習、アクティブラーニングそのものだと思います。まさに課題に即した生きた学びです。自分たちで地域を何とかするんだという熱があるからこその活動だと思いますね」。しかもこれらの取り組みは、学校で学ぶことが社会のどこに繋がっていくのかまで教えてくれます」とも。3本目の柱「高校生 社会活動コンテスト」には、奮闘する高校生に「これでいいんだよ」というエールの気持ちを込めたそうです。日々の勉強をさらに深める力になっていけば、他の都道府県にはない福島ならではの強みになっていきます。

「やはり誰かの力になろうと思ったら、その時のために力をつけておかないといけない。どこかで大きな災害が起きて役に立ちたいと思った時に、これだけは出来るという尖ったものが一つあれば必ず役に立てます。僕の場合は教育でした。東日本大震災の後、阪神・淡路大震災を思い出し、必ず教育が役に立つ時が来ると思いました。まさに今です」と前川さん。


学問が自分の人生に直結する面白い時代。福島県を学びの先進県に

 これからについては、福島の弱い部分を埋めながら強みを伸ばし、福島県を学びの先進県にしたいと思っていると前川さん。その活動も3年の間に広げた人脈を通して教育旅行のコーディネートや多様性をテーマにしたカフェなど幅を広げています。「実現したら教育環境が整っている福島県に引っ越そうかなと思ってくれる人が増えると思います。何よりも福島の教育が特色あるものに育っていけば、子どもたちが県外に出た時に福島で学んだことを誇りに思える自慢の故郷になります」と前川さん。

 中でも強く思いながらまだ取り掛かれていないというのが、課題解決学習を地域社会全体で取り組むような仕組みづくりです。「僕が好きな言葉で言うと、フィンランドの“アントレプレナーシップ教育”です。日本語にすると起業家精神と訳されてしまうのですが、自分の人生、自分で船を漕いで生きて行こうよというくらいの意味で、この教育の土台となるのが自己肯定感です」。振り返るとこれまでは、レールからはみ出ないように生きるのが“よく生きる”ことでした。そんな価値観が少しずつ変わり始めています。農産物の販路を例に考えてもインターネットの普及や様々な技術革新のおかげもあって、自分で考えて拡大していける時代です。前川さんは「学問が自分の人生に直結するすごく面白い時代に入ったと思いますね」と話します。

 一方でいつの時代も子どもたちは、かっこいい大人の姿を見ながら自分もあんなふうになりたいなあと胸を膨らませます。実は、課題が多い地域ほどカッコいい大人が現れやすいのだそう。前川さんは続けます。「周りを見渡してみてください。『こういう時にがんばらなくて、なんのための社協だ』みたいに頑張っている大人がたくさんいるのが今の福島です。そうした中で高校生が自己肯定感を高めながら、社会の一員として参加していくために必要な能力や資質を、地域全体で育んでいけるような教育の仕組みをここ福島で作り上げたいと思っているところです」。


辛い体験をした福島だからこそ、一人ひとりの違いを大切にしたい

 東日本大震災から6年。前川さんは「神戸では、高齢者男性の孤独死がどうやっても止まらなかったという非常に苦い経験があります」と、阪神・淡路大震災を振り返りました。
「僕は、専門がジェンダーなので、こういう時に男性が孤立してしまうというのがすごくよくわかります。男性って、会社や仕事を通じてしか“縁”を作れないことが多いんです」。

 興味深い活動として、南相馬市立総合病院の医師、小鷹昌明さんが平成25年から取り組まれている「HOHP(ホープ)」(H=引きこもり・O=お父さん・H=引き寄せ・P=プロジェクト)による「ものづくりで癒しの絆 ~男の木工教室~」の話もご紹介くださいました。「男性が集まるには何らかの理由がほしいということですね。男の料理の一番人気は“そば打ち”と聞いたことがあります。皆さん職人的なものを好まれるようです」。

 恩師の言葉に支えられて今があるという前川さんに、福島の子どもたちにメッセージもお願いしました。すると「いじめは、いじめる側が100%悪いので、福島から来たからということで子どもたちが苦しむということは、絶対にあってはならない」ときっぱり。

 また、県外の高校生や先生、大人たちに福島に来てもらう機会をさらに増やしたいと考えていると話しました。「みんなが福島の状況を正確に知ってくれたら福島出身ということに対する“いじめ”は、起こり得ないはずなんですよ」。

 もう一つ、意識して伝えていきたいことに多様性があるとも。事例として県立福島高校の「福島高校ダイバーシティ」の活動を紹介してくださいました。これは、辛い体験をした福島だからこそ、一人ひとりの違いを大切にして差別や偏見をなくして行こうという活動です。

 「尊いですよね。ダイバーシティの考え方の一つに、違いを歓迎するというのがあります。あなたと私は違う。生まれも考え方も違う。でも、それは素晴らしいことだと福島のみんなが思えれば分断も起こりません。日本中の人がそうなれば差別やいじめも起こりません。多様性の中で互いを褒め合い、認め合う世の中になると子どもたちはとても生きやすくなると思います」と前川さん。

 学校、行政、福祉、企業など、地域全体で連携を密にしながら多様性を大切にする寛容な文化をぜひ、ここ福島から発信していきたいですね。





▲東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興について学ぶ「教育旅行モニターツアー」(平成28年12月25日~27日)で来県した筑波大付属駒場高(東京)と灘高(兵庫)の生徒たちのフィールドパートナーとしてツアーに同行した時の前川さん(写真右:後列中央)



■連絡先■

一般社団法人 ふくしま学びのネットワーク
TEL&FAX 024-536-0770
E-mail  info@fks-manabi.net
https://www.fks-manabi.net/
https://www.facebook.com/fks.manabi
〒960-8141 福島市渡利字天神27-17 ロケットビル






■取材を終えて■

 1月9日、郡山市内で開催された高校生無料セミナー「夢を叶える勉強法8」に行ってきました。

 子どもたちは、みんな真剣。先生方のテンポのいい講義に目はらんらん。こんなに頑張っている子どもたちのために私たち大人ができることって何かと質問すると「応援することです」と前川さん。

 「教員の間でよく言われるのが、ほめる&叱るは7:3あるいは8:2。つまりそれくらい意識しないと人間って叱ってばかりになってしまうんですよ」。

 しかし、褒めるって難しい。しっかり見ていないと褒められません。「確かにそうですが、視点を変えれば見えてきます。大抵のことって自分はできない。例えば、毎日コツコツ続けるって自分にはできないことだからすごいことだなとかね」。多様性の幅をもって考えると、いろいろなことをほめたくなるそうです。今年のテーマにしようと思います。

(井来子)

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